10th Love ~都筑 秀の場合~

16/20
13493人が本棚に入れています
本棚に追加
/330ページ
「おい、立てるか」 何をそんなに意識してるんだ、俺は。 そう自問して、手を差し出す。 すると、山口千明はじっと俺を睨み上げた。 「これで、満足?」 「……は?」 「見せつけたかったんでしょう?私に、2人のこと。上野課長に頼まれた?」 「っ違う!」 思わず声を荒らげて否定する。 そんなつもりじゃなかった。 いや、そんなつもりだった。 言い訳の言葉も出ない。 「心配しなくても大丈夫。もうずっと前から、何度も思い知らされてるから」 彼女は切なげに遠くを見つめ、痛々しい笑みを浮かべる。 「やま……」 「帰ります」 かける言葉に迷っていると、彼女はそれを振り切るように、勢いよく席を立った。 「送る」 「結構です」 そう強く拒んで、俺の横を通りすぎる。 だけど、どんなに気丈に振る舞っていても、その足元は危なっかしい。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!