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「おい、立てるか」
何をそんなに意識してるんだ、俺は。
そう自問して、手を差し出す。
すると、山口千明はじっと俺を睨み上げた。
「これで、満足?」
「……は?」
「見せつけたかったんでしょう?私に、2人のこと。上野課長に頼まれた?」
「っ違う!」
思わず声を荒らげて否定する。
そんなつもりじゃなかった。
いや、そんなつもりだった。
言い訳の言葉も出ない。
「心配しなくても大丈夫。もうずっと前から、何度も思い知らされてるから」
彼女は切なげに遠くを見つめ、痛々しい笑みを浮かべる。
「やま……」
「帰ります」
かける言葉に迷っていると、彼女はそれを振り切るように、勢いよく席を立った。
「送る」
「結構です」
そう強く拒んで、俺の横を通りすぎる。
だけど、どんなに気丈に振る舞っていても、その足元は危なっかしい。
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