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「…お体の具合は、大丈夫ですか?」
いまだに緊張の呪縛から解き放たれていないマルクの顔を覗き込み、シオンは無表情ながらも優しい声色で話し掛けてきた。
その様子に、つい先ほどまでの荊のようにトゲトゲしい雰囲気はない。まるで束の間の幻でも見ていたのか、それは微塵の痕跡も残さずに消え去っていた。
「う、うん、大丈夫だよ。ありがとう、シオンさん。おかげで助かったよ」
「…御無事でなによりです」
隠れていた岩に片手をつき、マルクはシオンから手を借りながら礼を述べて立ち上がる。
そこでふと、なにやら静かなキリィへと顔を向けてみると、おっかなびっくりといった感じの表情を浮かべながらマルクとシオンへ交互に見比べているのだった。
そりゃまあ、いきなり現れたあまりにも場違いなメイド服の人がいとも容易に強敵グリフォンを打ち倒し、街から街への流れ者という設定の自分が何故か親しげに話していれば困惑の一つもするだろう。
状況的にも、さすがにこれ以上その設定を貫き通すことは出来そうにない。こうなっては、いっそのこと全てをキリィに打ち明けてしまおうか。いずれ後で話さなければならないことだし、それが今の関係からの決裂の理由になろうとも、いずれにせよ必ず打ち明けることになるのだから。
「な……な……ななな……?」
「あ、あはは……あのねキリィ、ちょっと聞いてもらいたいこと―――」
「マルクぅぅぅぅっ!!」
多少の心苦しさを感じながらも説明をしようとマルクが口を開きかけたその時、どこからともなく半狂乱な声が聞こえたかと思ったその瞬間、彼の体は闇から突如として現れた人影によって抱きかかえられるように押し倒されていた。
転がる岩によってデコボコとした地面と挟むように、二人分の体重がマルクの体にのしかかる。すでに満身創痍であった彼は、頭が理解するよりも早く声にならない絶叫を上げていた。
あの精神的にイッちゃった声に、他人の迷惑を一切考えぬこの行動。こんな卑劣なことをする人物は、マルクの頭にはたった一人しか思い浮かばなかった。
「おおマルクよ!なんという痛ましい姿だ!私が至らなかったばかりに再びお前をこのような危険に晒し、私は非常に自分を情けなく思う!だからマルクよ、せめてこの私にその苦痛を和らげさせて欲しい!私の胸の中で、存分に甘えてくれ!」
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