Stray Wolf's Depression

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無限とも思える無数の弾丸がグリフォンの全身に突き刺さる様は、まさに豪雨の真っ只中に晒されているかのように壮絶。足から胴体、翼へと恐怖心を弾丸に込めて植え付けるかのように銃口を向ける、シオンの表情は普段通りの無色透明だが、その中に僅かながら怒りの紅蓮を滲ませているように思えた。 鷹のように獲物を逃さぬ正確無比の射撃を受け続け、さすがのグリフォンも全身のあちこちに銃創を刻み、反撃する暇も与えてはくれない猛攻を前に完全に腰が引けてしまっていた。 人間が単身で龍種に挑み、撃滅する。前代未聞の瞬間をあと少しで目の当たりに出来そうだが、それはこの場の誰しも望んではいなかった。元を辿れば、グリフォンはただ縄張りに入った者を襲撃しただけで、その領域を荒らしてしまったのはこちらなのだから。 「だ、ダメだよ……シオンさん……殺しちゃ……ダメ……っ」 痛む体を起き上がらせてマルクは今にも消え入りそうな声を無理矢理喉奥から絞り出し、なおも激しい銃声を響かせるシオンへと呼び掛けた。 すると、彼の声が聞こえたせいかは定かではないが、シオンは引き金を絞っていた指を緩めた。残る銃弾は一発。強力な術式を幾重にも込めたこの弾丸の貫通力は、たとえ強靭な龍の鱗であろうとも易々と貫けるだろう。 しかし、それを望まないただ一つの声に、トリガーを引く指は躊躇わされた。思わず本来の衝動が起き上がってきそうになってしまう状況にも関わらず、その指は引き金を引くことが出来なかったのだ。 やはり、彼は自分にとって特別な存在、そして不思議な力を持っているようだ。そんなことを考えてしまう自分がなんとなく滑稽で、シオンは人知れず自嘲気味の笑みをこぼした。 もはや普通にさえ立っていられないグリフォンの頭部に合わせていた照準を僅かにずらし、シオンはついにその引き金を絞った。 火薬の爆発と共に放たれた弾丸は一際強い魔力の波動を放ちつつ一直線に大気を割いて突き進み、残った角を撃ち抜いた。 もともと亀裂のあった箇所に開けられた大きな風穴に、砕けた角が宙を舞う。魔力制御の最後の要を失い、グリフォンは弱々しい咆哮を上げて崩れ落ちるように地に伏した。 強敵を打ち倒し、シオンは巨大な重火器を肩に担ぎ上げてマルク達の元へと全く疲れを見せない軽い歩みで戻ってきた。
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