Stray Wolf's Depression

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「くっ、くるひっ!そして痛い!痛いよフレイア!冗談抜きで死んじゃう――――っ!」 ベキベキと枝が折れるような音を立ててグリフォンからのダメージを受けていた肋骨が軋み、電撃のように全身を駆け抜ける激痛にマルクは悶死寸前。その清浄たる魂が黄泉と現世の境界線を一跨ぎにしようとした瞬間、救いの手が差し伸べられた。 いや、それは救いの手と形容するにはいささか物騒過ぎる代物。シオンによって構えられた黒鉄の銃口が、過激な愛情表現を続けるフレイアの後頭部に押し付けられたのだ。 「…すぐにマルク様から離れなさい、無礼者。そのスポンジよりもスカスカの脳天に風穴を開けられたくないのであれば」 フレイアに押し付ける銃と同じく、鉄のように冷たくて無機物なシオンの言葉。同時に、意識の方向をマルクから移しているかのようにフレイアの動きもピタリと静止した。 胴体に巻き付いたフレイアの腕による締め付けが弛み、ようやく大きく深呼吸をすることが出来たマルク。しかし、安心するにはまだ早い。グリフォンの脅威など足下にも及ばない、壮絶且つ熾烈な争いが彼のすぐ目の前で始まろうとしているのだから。 近くにいるだけで、ピリピリと肌が二人から発せられる無言の圧力で痛む。その雰囲気を例えるのであれば、かの最終戦争を思い起こさせる。もしくは、それ以上のもの――― 「やれやれ……私とマルクの再会を邪魔立てするとは非情なる輩め。使用人ならば、マルクの伴侶である私のことは奥様とでも呼ぶべきではないのか?」 「…戯言を。低俗且つ下賤な輩がずいぶんと大それたことを言うのですね。マルク様に近付く虫を、私は打ち払う義務がある」 その言葉が、少しばかりフレイアの逆鱗を掠めたらしい。ほんの一瞬ピクリと眉を動かして、ゆらりとマルクから離れて静かに立ち上がった。 あまりにも張り詰めた状況に、もはや制止の言葉も出て来ない。ならばせめて巻き込まれまいと、マルクはそそくさとキリィと共に彼女達から離れるのだった。 「そのような玩具を私に向け、一体どうしようというのだ?そんなものでは私の体に傷の一つも―――」 そこまで言いかけたフレイアの体が、一発の銃声と共に仰け反った。その正面には、硝煙の匂いと煙を立ち昇らせる銃を構えるシオンの姿。何一つの躊躇いもなく、彼女はフレイアへ向けた銃のトリガーを絞ったのだった。
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