プロローグ

2/7
17205人が本棚に入れています
本棚に追加
/733ページ
そよ風に揺れる大樹の下、ザワザワと子守歌のように揺れる枝葉から降り注ぐ木洩れ日の中で、コツコツとチョークがリズム感良く黒板を叩く音が風の音とまるで素敵なハーモニーを奏でるように心地良く響いていた。 大木の太い枝に掛けられた大きな黒板の前に立つのは、どこか幼い顔立ちをした一人の若者。清潔感のある真っ白なローブに細身の体を包み、手入れの行き届いた美しく輝く銀髪が風に乗って揺れていた。 彼の名はマルク=フォン=フリードマン。貴族の家柄、フリードマン家の三男にして、この楽園において数ヶ月ほど前から子供達に様々な知識を与える教職に就く魔導士の若者である。 この地を訪れる以前、ある貴族の家柄の顧問魔導士として働いていた彼だったが元々の才能が無いばかりに成果が上がらず、勤め先から解雇されてアテもなく各地を渡り歩いていた。 そしてそんなある日、まるで台風の如く現れたある女性との出会いにより、彼は半ば無理矢理といった感じにこの楽園と呼ばれる場所へ連れてこられたのだった。 始めは外の人間とは一味も二味も違う楽園の住人達に戸惑っていたマルクだったが、今ではすっかり順応してそれなりに楽しく充実した楽園ライフを送っている。 手にした教科書の一文と図を書き写し、チョークを置いたマルクは切り株の机に着く三人の可愛い生徒達へと振り返った。 「このように、かの大国レシアンの王、セルリアはこのような布陣を敷くことで次々に領土を広げて―――」 説明を途中で中断。目の前の見慣れた光景を前にマルクは額に手を置いて深く溜め息をついた。 彼の見た光景、それは三人の生徒の内、青髪の少年と赤いツインテールの少女の二人が机に顔を押し付けてやかましいばかりのいびきをかいている。彼らのノートを覗き込むと黒板の内容をしっかり書き写しているものかと思いきや、余白はビッシリとよくわからない落書きで埋め尽くされていた。 相変わらず、興味の無い歴史の授業ではまったくと言っていいほど集中力が続かないらしい。これまでにも幾度となく注意を促してきたものだが、もしかしたら一生この居眠り癖は治らないような気がしてきた。 とはいえ、教師として注意しないわけにもいかないだろう。いつかは治ることを信じて、マルクは真ん中の机にチョコンと座る金髪の少年に目配せをすると、再びくるりと黒板に向き直った。
/733ページ

最初のコメントを投稿しよう!