第一部:その男、伝説に消えた者

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問い掛けられたポリアは、ショックな顔で。 「知らなかった・・何も…」 するとKは、ポリアを見詰めまま。 「ま、もう数千年前の逸話かもしれないが、な。 君の家は、代々に亘って剣の名手を輩出してる。 その歴史からすると、あながち嘘では無いと思うが」 語りながらカップを置いて、手をタオルで拭くと。 「さて、埋もれた昔話は、これぐらいにしよう。 自己紹介も終わったし、目下の依頼についての話といくか」 マルヴェリータに肩を掴まれたポリアは、ハッとして。 「えっ? あ・・、えぇ。 お願い・・」 改まった皆の前、語られ始めたKの話は、こうだ。 今から四ヶ月ほど前の事で在る。 この王都マルタンから、真北に行く事、約四日の距離に在る町〔オガート〕で。 一人の女性が突如、行方不明になった。 その娘の名前は、“クォシカ”。 農業が、産業のほぼ全てを占める田舎町、そんなオガートだが。 町娘にしては、綺麗な女性で。 町一番の美しさだったそうな。 そして、依頼者の“ラキーム”とは、町の町政を司る“町史”(ちょうし)という役職で。 町では、一番偉いらしい。  さて、依頼から一聞すると。 婚約者が居なくなったラキーム氏が、愛する女性を探そうとしている・・様に見えるが。 どうやら、裏の実情は、そんな美しいモノではないらしい。 このラキーム氏は、実は町史といっても、まだ代行の身分で在り。 その名義としての任は、任命された父親にある。 最近、身体の調子が悪い父親に成り代わって、息子のラキーム氏が代行している訳だ。 だが、このラキームという人物の評判は、(すこぶ)る悪い。 町は、野菜や果物の生産で、春から秋の終わりまで商人が訪れて。 農家や地主と、取引が盛んなのだが…。 ラキーム氏は、その場に時々現れては、双方に金をせびると云う。 然も、大の女好きで。 女性に付き合いを迫るのも強引で、気に入れば誰とでも、とか。 其処まで聴いたポリアは、苦虫を噛み潰して粉々にした様な…。 不満と苛立ちを込めた顔と成り変わり。 「まさか、その失踪って・・・。 その依頼者のクズ男から、クォシカって女性が逃げ出したとか?」 と、呆れ目を細める。 話を聞くだけでも、腹立たしい男のラキームと云う人物。
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