交錯する心

41/41
5985人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
「哉子、どした?」 「……ちひろ…あのね、」 「ん?」 「……ううんっ、えっと、無理しないでね」 「?うん大丈夫、ありがとね」 哉子が何を言いたかったのか、この時は分からなかった。 けど、考えてみればすぐ分かることだった。 哉子には話しておくべきだった。 鋭いけど、深く勘ぐることをしない哉子。 これ以上心配をかける前に、ちゃんと話して安心させてあげるべきだった。 「有難うございましたー」 忙しさのピークも一通りすぎて、空いたテーブルの片付けに取り掛かる。 今日は平日でそこまで混んでないため、早めに上がっても問題なさそうだった。 「ふぅ…」 身体の調子もすっかり元通りで、動いた分食欲も出てくる。 時刻は七時半を回っていた。 休憩までいくらもないが、客入りも落ち着いたので少し休もうと奥へ足を向ける。 しかしその時、入り口のドアが鳴った。 「いらっしゃいませー、……!?」 振り返って頭を下げた後、案内しようと顔を向ける。 だが俺はそのまま固まった !!? そこに居たのは暁だったからだ。 「……な、な…」 (……なんで!?) 「何ボーっとしてんだよ」 呆然とする俺に向かって冷静に突っ込みを入れてくる。 ハッと我に返るが、動揺してメニュー表を取り落としてしまった。 それを拾いながら、暁は俺に呆れたように笑い掛ける。 「大丈夫かよ」 「あっ…うん、悪ぃ…っえっと、一名様で?」 「ああ」 「喫煙?禁煙?」 「喫煙」 ……いやいやいや 「っはい、お一人様、禁煙ですね。こちらへどうぞ~!」 「……はっ」 てっきり不機嫌になると思いきや、暁は何がおかしいのか笑い始めた。 「な、何だよっ一応聞いてみただけで、喫煙なんか無理だからな!」 「ああ、分かってる」 (くそ~~~) 突然のことに動揺して対処しきれない。 過敏に反応してしまって、からかわれてるのが分かる。 でも嬉しそうに笑う暁を見て、俺も自分の顔が熱くなるのが分かった。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!