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『それで会社がつぶれれば…会社の経営者も、借金まみれになるんですよ?』
何が言いたいのだろう。
私に長々説明させたが、彼が言わせたかったのはこれだけだったような気がする。
嫌な胸騒ぎがした。
なんだか良くない事が起きるような。
『本題です。』
急に、明るくなった声に肩がびくつく。
『…結城社長の会社の顧客情報を、盗ませて頂きました。』
「………え?」
それは静かで優しい声だった。
言っている事と声とのバランスが全くとれていない。
受話器を握る手に無意識に力が入る。
「ご冗談を…盗むなんてそんな事…」
震えてしまう声を抑え、乾いた笑いを浮かべながら言った。
『冗談?…僕は裏社会では名の知れたハッカーでね。さすが結城社長、何重にもセキュリティーがあってかなり時間はかかりましたが…僕の手元にはしっかり顧客情報があるんですよ。』
ハッカー…?
そんなドラマや映画でしか聞いた事のない単語に頭が混乱する。
嘘だ。
そんなまさか。
海斗の会社より大きな会社は海外を探せばたくさんある。
何故よりによって海斗の会社なの?
…いや、悪戯かもしれない。
海斗は誘拐事件以来厳重に顧客情報を守ってきた。
まさか、そんな事が起こるわけがないのだ。
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