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我ながら間抜けな返事だったと、安野は思う。
あ、あぁ、うん。
だなんて、返事にもなににもなっていないだろう。
言われた言葉の意味だってわかった。
いつもと変わらない騒がしい廊下を安野は歩く。
心臓がとくとくと、まるで皮膚を揺らすかのように動いていることなど、すれ違う誰もがわかるはずがない。
ただ安野だけにはしっかりとわかった。
好きだって…
(だってよ…)
今までそうゆう目で九条を見たことはなかった。
いつから?
いつから九条は…
好きってことはガキじゃあないし、
(付き合いたいとか…)
ぶつぶつと安野は階段を降りる。
(…デートしたいだとか、手ぇ繋ぎたいだとか…そのあとキスしたいとか…っ!?)
わーっとなった。
安野は廊下にしゃがみこむ。
頬か顔面か耳か、わからないが兎に角何かで覆い隠したいと手のひらをあて。
(だって、だって、だって!!)
君島とのキス、藤森とのキスが一緒にやってきた。
(あ、あ、あ…ああっ!!)
恐らく最後のほうは本当に口に出していただろう。
安野はすくっと立ち上がり走りだす。
目的地はない。
一目散に、ただひたすら。
下駄箱先、自販機の前でぶつかったのは藤森だった。
ばっと目が合った瞬間、安野の顔が真っ赤にそうして歪に歪んだ。
藤森がはじめて見る顔で安野は下駄箱を通り抜けていった。
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