-邂逅-

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シャドウと戦った場所から再び森に入り、翔は真っ直ぐに高台を目指す。   体の疲労は軽くないが、それでもいかなくてはならない。 そこに、ウラヌスが居るはずだから。     森の木々から見える高台が、徐々に大きさを増していく中で翔はほんの一瞬だけ、メトラスまでの全ての体験を思い出しそうになった。   だがそんな、溢れそうになる思い出を翔は直ぐに心の奥にしまい込む。   心を奮い立たせる為ならばそれも良かっただろう。しかし振り返る事で、足を止めてしまうのならそれはダメだ。     森の中は今、恐ろしく静かだった。まるで森そのものがこれから起きる何かを警戒して息をひそめたかのように。 近付いてくる高台も、その威容によって圧力を増した。   空気が痛い。 皮膚を通してじわじわと頭に入り込んでくるのは、深い恐怖。   未知への恐怖ならば、ここに来てかなり耐性がついたはずなのに 今、この瞬間、何が起きるのか分からない事が、とてつもなく怖くなっていた。   無駄と分かっていながらもしてしまう想像。   敵の奇襲で一瞬で死んでしまうのではないか 何も出来ないまま、結果を思い知るだけになるのではないか     そんな恐怖に鳥肌を立ながらも足が先に進む事を止めようとしないのは、恐怖より強い何かが、翔の心を支えてくれているからだろう。   それが何か はっきりと説明する事は出来ないけれど、とても強い気持ち。     それはむしろ、言葉では言い切れないもの。     森の先に、光が見えた。 先が開けている。     翔は不安と、それに抗う感情を心に内包したまま、木々の間を抜けた。
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