虚無感

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走る、疾走る、狂走る。 先程見た紅い海を、それに汚された脱け殻達を、頭の中から追い出そうと疾走る。 山の中、常人には不可能な速度で疾走る。 頭が痛む。 何かが記憶の奥底から汲み取られるのを待ちきれなくなったかのように、映像が浮かぶ。 それを打ち消しながらも疾走る。 ただひたすらに、ただ黙々と、頭を襲う痛みを堪えて、来た道を一陣の栗色と浅葱色の風となって駆け下りる。 もうすぐ麓という所で、胃の腑は堪えきれなくなり、内容物を逆流させる。 強制的な嘔吐に涙が滲み、視界を奪われる。 涙を拭おうと目を瞑ると、瞼の裏に浮かんだのは紅い海と男女の脱け殻、そして幼い自分と禍々しい、とても禍々しい武器を持っていて、輝く髪を棚引かせる人。 背筋にゾクリとしたものを感じる。 自分は知らない、こんな場面は記憶にない。 頭の中で呪詛のように繰り返し、再び疾走り出せば、間もなく麓で待つ他の隊士達の前へと辿り着く。 (伝えなくちゃ……) そう思い声を出すが、酸に焼かれた喉から出るのは自分の物とは思えない掠れた声。 「長州……藩兵、発見、ぜん、いん自害……ざん道を辿れば、づけまず……」 フッと意識が途切れて、暗幕が引かれたかのように視界が暗闇に変わる。
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