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「これから人を斬るのに随分楽しそうですね」 視線が交わると沖田は、そう言って虹に嫌な笑顔を向ける。 沖田の台詞に場が凍り付いた。 「ああ永倉さん帰っていたんですね。 お帰りなさい」 「あ……ああ、ただいま」 沖田の台詞を無視することを決めたのか、虹は飛び切りの笑顔を永倉に向ける。 いきなり話を振られた永倉は困惑顔をしていたが、とりあえず相槌を打つ。 それを皮切りに再び広間には会話が戻り、土方は人知れず溜め息を零す。 隣の近藤を一瞥しても自分と同じような顔をしていたので、それが再び溜め息をつかせる原因となった。 「昨日はどうでした?」 そんな上司の心労を知ってか知らずか、虹は永倉との会話を続ける。 「結局、朝方まで付き合わされてな……。 それに御倉だけならまだしも荒木田まで居たんだ。 鎌をかける為に狸寝入りを決め込めば、すかさず脇差に手をかけやがった。 「済まない。眠ってしまった」と起き上がればあからさまに目を泳がせたのは中々傑作だったぞ。 まあ、そんな態度を見せられては流石の俺も気が抜けなかったが」 げんなりと話す永倉を見れば、どれ程疲れたのかが良く分かる。 荒木田まで居たのか……。 だから昨晩探しても見つからなかったんだな。 「それはご愁傷様です。 ま、とりあえず無傷で何よりで。 副長助勤ともあろう方が平隊士に殺されたとなれば、いい笑い者になりますからね」 「お?なんだかお前の減らず口を聞くのは久しぶりな気がするな。 漸(ヨウヤ)く調子が戻ってきたか?」 辛辣な台詞を笑顔で言われているのに永倉は嫌な顔一つしない。 むしろ元気になったことを喜んでいるようにも見えた。 「やっぱ、口から毒を吐かねえと秋月じゃねえよな。 辛気臭え顔されちゃ、誰かさんが二人居るみてえでこっちとしても居心地が悪ぃ」 「……なんだ? それは俺のことか原田。 こっちを見ながら気持ち悪ぃ笑みを浮かべるな」 原田と視線がぶつかった土方が仏頂面で呟く。 原田が悪びれた様子もなく土方に謝ると土方は再び食事に集中した。 「……原田さんは私を何だと思っているんですか。 私は誰かさんより可愛げがありますよ」 「……どの口から「可愛げ」なんて言葉が出るんだ」 食事に集中していた筈の土方が虹を睨む。 虹は不敵に笑って土方から目線を外した。
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