寂しがりなライオン

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歩く。 歩く。 歩く。 “他人【ひと】”はオレを避ける。 だからオレの前には誰もいない。 都会のど真ん中。 昼過ぎのスクランブル交差点。 多くのヤツらが行き交う中で、オレの周りだけポッカリと穴が開いている。 オレがおめえらに何をした? 五万といるおめえら一人一人に、オレは一体何をしたって言うんだ? 知らねえ。 分かんねえ。 チャラチャラした女ども。 こっちを睨んでくるオヤジども。 そんなヤツらに興味が持てず、オレはただ目の前の交差点を歩く。 早く渡りきり、どこかに行きたい。 誰もいない。 ただ一人の場所に。 ドンッ……とした衝撃が胸に走る。 そんなに強いものではなく、ただ歩みが止まっただけ。 カランカランと響くか細い金属音に視線を落とせば、一人の女がケツを地べたに付けて座っていた。 「あ! すみません! 大丈夫ですか?」 見つめるオレに気づいたのか、その女は口を開く。 “お前の方こそ大丈夫か?”と、声をかけようとしたが踏みとどまる。 怯えて逃げられるのがオチ。 無視するように視線を女から外せば、近くに転がっていた杖が目に入る。 さっきの音はコレか……と思ったとき、ふと女の行動がおかしいことに気づいた。 顔は正面に向けたまま。 地面を手で撫でるみたいに触っている。 何がしたいのか。 いつの間にか、聞こえていたはずのどこか間の抜けたメロディが止まっている。 見ればチカチカとする信号。 辺りにもう人はいない。  
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