始まりの夢

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 いまだに、見る夢がある。  小学生、いや、ひょっとしたらもっと以前から、ずっと見続けている夢が、私にはあった。  私は、雪の中を、コートかなにかの襟を首の前で握り締めるようにして、ざくざくと歩いている。  ふと前方に目をやると白い雪の粒が、大群となって私に向かって襲い掛かってきていた。  雪は、うねるような螺旋を描く風に乗って、私に向かってくる。そして、私の後ろへと過ぎて行くのだ。  風の冷たい事といったら、「それは、まるで身を切るように」という比喩が、一分の隙も無くぴったりはまるほどだ。 「家にはもう帰れない、たどり着く事が出来ない。このまま死ぬんだ……」  無意識のうちに、そういった危険の中にいることが感じられ、そして何かの拍子に、その事が、急に言葉になって理解できたような、そんなはっとした気分となる。  ひたすら心細くなって、辺りを見回すと、薄暗く冷たい世界が、何処までも続いていた。  明かりは無い……。  いや、あったとしても、見つける事が出来ない。  目に映るのは舞い踊る雪のみ。寒さで体が、自由にならない。  何度も立ち止まった。 「本当にもう……、駄目かもしれない」  素直にそう思った。  立ち止まるたびに、風は大きな音を伴う物だということを、思い知らされた。  その音は、女性の叫び声のようにも聞こえる。 でもそれは、やっぱり風の音なのであった。  そんな中、私は後ろから声をかけられる。  女性の声だ。この世の全ての悲しみを知り尽くしているような、そんな切ない声だった。 「いぞうさま……」  彼女は、人の名前を呼んでいる。  その声に誘われるまま、私は、振り返ると、彼女の視線に、夢幻の世界へと誘われていく。  彼女の、その姿はこの上なく美しく、そして儚げだ。   そして、その目は真っ直ぐに私を見ているから、きっと私を呼んでいるのだ。  しかし、それは私の名前ではないから、 「私は、『いぞうさん』などではありませんよ」  そう、言おうとするのだが、声が出せない。  黙ったまま、彼女に向かって突き出した両の手を、違う違うと、振って見せる。  そうした後は、彼女は何も言わなくなる。ただ私のことを、黙ったまま見つめている。  その表情といったら、今にも泣き出しそうなのだ。  いつも必ずここで目が醒めた。
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