39人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
いまだに、見る夢がある。
小学生、いや、ひょっとしたらもっと以前から、ずっと見続けている夢が、私にはあった。
私は、雪の中を、コートかなにかの襟を首の前で握り締めるようにして、ざくざくと歩いている。
ふと前方に目をやると白い雪の粒が、大群となって私に向かって襲い掛かってきていた。
雪は、うねるような螺旋を描く風に乗って、私に向かってくる。そして、私の後ろへと過ぎて行くのだ。
風の冷たい事といったら、「それは、まるで身を切るように」という比喩が、一分の隙も無くぴったりはまるほどだ。
「家にはもう帰れない、たどり着く事が出来ない。このまま死ぬんだ……」
無意識のうちに、そういった危険の中にいることが感じられ、そして何かの拍子に、その事が、急に言葉になって理解できたような、そんなはっとした気分となる。
ひたすら心細くなって、辺りを見回すと、薄暗く冷たい世界が、何処までも続いていた。
明かりは無い……。
いや、あったとしても、見つける事が出来ない。
目に映るのは舞い踊る雪のみ。寒さで体が、自由にならない。
何度も立ち止まった。
「本当にもう……、駄目かもしれない」
素直にそう思った。
立ち止まるたびに、風は大きな音を伴う物だということを、思い知らされた。
その音は、女性の叫び声のようにも聞こえる。 でもそれは、やっぱり風の音なのであった。
そんな中、私は後ろから声をかけられる。
女性の声だ。この世の全ての悲しみを知り尽くしているような、そんな切ない声だった。
「いぞうさま……」
彼女は、人の名前を呼んでいる。
その声に誘われるまま、私は、振り返ると、彼女の視線に、夢幻の世界へと誘われていく。
彼女の、その姿はこの上なく美しく、そして儚げだ。
そして、その目は真っ直ぐに私を見ているから、きっと私を呼んでいるのだ。
しかし、それは私の名前ではないから、
「私は、『いぞうさん』などではありませんよ」
そう、言おうとするのだが、声が出せない。
黙ったまま、彼女に向かって突き出した両の手を、違う違うと、振って見せる。
そうした後は、彼女は何も言わなくなる。ただ私のことを、黙ったまま見つめている。
その表情といったら、今にも泣き出しそうなのだ。
いつも必ずここで目が醒めた。
最初のコメントを投稿しよう!