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「そういうことなら、俺たちは今回はただ事の成り行きを見守るだけで充分だな。もどかしい気持ちは残るが、警察に任せるのが一番だろう」
満足気に、柳は笑った。万事解決したと言わんばかりの笑顔に、知香は俯く。
「ええ……そうなんですけど」
歯切れの悪い返事に、柳は表情を固めた。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「…………」
知香は上目遣いに、柳の顔を盗み見る。言っていいことなのだろうか。知香は迷った。
「実は僕たち、容疑者らしき男性が錦里さんに連行されるのを見たんだけど──」
横から入った写宮の台詞に、柳がきょとんとする。
「なんだ、結構進展してるんじゃないか」
「うん、まあ、そうなんだけどね」
「……妙に濁すな。どうした?」
「いやぁね」
深くソファに腰を沈めた写宮は、軽く躊躇するような間を取った。
「その人、父さんとこの医者らしいんだ。で、僕たちは事件の前に彼と知り合いになってる」
瞬間、痛ましげに柳が表情を曇らせた。「そうか」と呟き、知香に向き直る。
「桜井ちゃんにとって、それは辛いな。知り合った相手が、事件の容疑者なんて」
「しかしね、仁志くん」
労る柳の向かいから、写宮は話しかけた。
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