他者による前奏

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「帰って兄様にお出かけ許可をもらって、早く届けないとっ」  走りながら茶髪の少年の顔には笑みがこぼれていた。  肩から下げた大きな鞄の中には、友人への贈り物が入っている。  その子の笑顔を想像すると嬉しくて、走るたびに揺れる首から下げた指輪のペンダントがもどかしかった。 「お誕生日おめでとうのカードも書かなきゃ」  低い石段を二段ずつ飛ばして、少年は高いところにある灰色の建物を目指す。  大きく構えた城。少年からは城壁しか見えないが、もう気持ちは城の中にいた。  目を閉じても分かる道を走り、大きく息を吸う。  一瞬、薔薇の甘い香りがした。  少年は微笑み、走りながら香りを感じようと目を閉じる。 「あ……っ!」  次の瞬間、少年はぶつかった。 「あっ、申し訳ありません」  目を開けると、上から降りてきた青いドレスの少女が手を差し延べていた。  自分よりずいぶん年上に見える少女に、少年は微笑みかける。  柔らかく揺れている、靴まで隠れる青いドレスが印象的な、艶やかな黒髪の少女は、少年につられて微笑んだ。  優しい笑顔に少年は目を細めて、鞄を持ち直す。 「こちらこそ、申し訳ありません。痛いところはありませんか? 素敵なドレスを汚してしまったのか心配です」  少年はもう少し話しかけたかったが、待っている友人の顔を思い出して、頭を下げた。 「急いでいるので、失礼します」  再び階段を駆け上がり、少女がなにかを話しかけようとしたことに気付いたが、振り返ることはしなかった。 .
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