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僕は、愛する人を殺した。
親友(キミ)の目の前で…―
[僕は狂っている、]
家を出ると灰色の雲が今にも泣き出しそうな様子で空に浮かんでいた。
僕は玄関前の傘立てから真っ黒の、骨が一本だけ折れている傘を取り出した。
新しい物を買えばいいのに、とキミはよく言ったけれど、僕はこれじゃなきゃダメだったんだ。
黒は何にも染まらない色だから。
いつものように駅へと歩みを進める。
誰もが周りの人など気にすることなくただ自分の目的地へと向かっていた。
こういう時、僕は何だか寂しいような悲しいような気分になった。
そして必ずキミに逢いたくなった。
ふと空を見上げる。
汚い灰の間から美しい青が覗いていた。
僕は少し傘を後悔しながら駅へ入っていった。
切符を買って改札口を通り抜ける。
代わり映えのしない無機質なコンクリートで造られた駅のホーム。
もう正午を回っていたせいか朝の出勤ラッシュよりは格段に人が少ない。
まだ電車が来るまでには時間がある。
僕は5人掛けの椅子の一番端っこに座った。
反対のホームを眺めてみる。
一人の女性がキャスター付きのバックを持って時刻表を眺めている。
今からどこかへ旅行にでも行くのだろうか。
僕はぼんやりと、大して興味もないことに思考をめぐらせながら暇を潰した。
るるるるるる…
駅員のアナウンスと共にごう音と赤の自由席がやって来た。
この駅からこの電車に乗ったのは僕だけのようだった。
がたん…ごとん…
ごとん…がたん…
時折不規則にゆれる電車内でぼくは眠気に襲われた。
心地良い眠気だった。
霞みゆく世界の中、僕は聞いた。
「アナタを愛していました。」
「僕もだよ。」
そう答えて、僕は眠った。
彼の人生の内で一つ、大きく間違っていることがある。
黒は白に染まる。
―……オヤスミ、マイフレンド。
良い夢を、
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