満員のバス

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満員のバス

 来春には高校二年生になる小岩尚美は、八王子にある女子高に通っていた。休み時間や放課後ともなれば、彼女は僅かな時間を見つけてはファッション雑誌と首っ引きで、友達とのおしゃべりに余念がない。  尚美は特に部活動をしていないいわゆる帰宅組で、仲の良いクラスメイトの遠藤舞子と菅野ミチコの三人で、駅までのバスを待っていた。 「いいわよね、舞子もミチコもスタイル良いから。私なんか日曜日に渋谷に行くの恥ずかしいよ。何を着ていけばいいかわからないし」  ぼそりと独り言を漏らし、小さく溜息をつく尚美に、ミチコは優しく語りかけた。 「ばかね尚美ってば。だから渋谷で洋服を買うんでしょ? マルキューで着替えてしまえばいいじゃない。きっと可愛くなるよ尚美なら」  尚美はミチコの言葉に思わず頬を赤らめた。  ミチコは尚美の肩に手を置き、その肩に届く黒髪にそっと触れた。 「あんた達ってば怪しいわ。やっぱりエスなの?」  舞子が二人を冷やかすように言うと、ミチコは舞子を振り返りニッコリと笑いかける。 「綺麗なものは綺麗なの。それだけよ」  やがて紅葉した街路樹の木漏れ日に照らされて、遅れていたバスが三人の前までやってきた。
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