叫びの頻波

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────── 「…………ん」 月明かりだけが淡く照らす薄暗い部屋。静かすぎるほどの静寂。その為か、時折窓の外からサワサワと聞こえる葉音が妙に頭に残る。そんな部屋のソファーの上で、ふと拓郎は目を覚ました。 葵の気配が感じられない。恐らくまだ帰っていないのだろう。清四郎の姿も見えないが、家の中に気配だけは感じられた。どこか別の部屋で寝ているのだろうか。 ふと壁に掛けられた時計に目をやると、午前〇時を少し回ったところだった。まだ呆けている目をこすり、拓郎はゆっくりと起き上がる。 その瞬間ズキリと痛んだ右肩に一瞬顔をしかめるが、すぐに何もなかったかのようにソファーを降りた。 清四郎が掛けてくれた毛布を無造作に置き、脱いでいたカーキの上着を羽織って部屋を出る拓郎。上着は所々に血が染み込みほつれているが、これしかないのだから仕方ない。 大きな欠伸を一つ。それによりだいぶ覚めた頭を回転させると、一つの気配が思わぬ場所にあることに気付いた。 思わずフッと笑みをこぼし、玄関を出る。真夜中独特の冷たい空気が拓郎の鼻先をかすめ、吐いた息が白く染まった。 「うっわ。こんな寒い中よく居られんな……」 早くも赤くなってしまった鼻をすすりながら数歩歩き、後ろを振り返る。その目線の先は、青い家の屋根の上。そこにいた人物はこちらに背を向けて座っているため気付いていない。 拓郎はポケットに手を突っ込んで足に力を込めると、跳ねるように屋根の上まで飛んだ。
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