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「よお。何やってんだ?」
「…………響夜」
音もなく屋根に着地して立ち上がり、ポケットに両手を突っ込んだまま声を掛けた拓郎。振り返った翼はそれに驚いた表情で拓郎を見つめる。
「何で此処に居るって分かった」
「気配がしたからな。こんなクソ寒い中、屋根の上に座る馬鹿の気配が」
「…………」
翼のすぐ横にしゃがみながら笑う拓郎の言葉に、冷たい無言を返す翼。
「こらこら、そんな怒んなよ。それに、前にもお前みたいな奴に会ったことがあってさ。そいつも、何かある度に屋根登ってたな」
「俺に……似た?」
興味を持ったように問い掛ける翼であったが、拓郎はフッと笑うだけであった。自分から出した話題だ。聞かれたくないわけではないだろう。そんな疑問を抱きつつ、翼は再び口を開く。
「傷は?」
「おう、バッチリだ。お前が庇ってくれたからな」
「……嘘だろ。まだ、血の匂いがするぞ」
「犬か」
吹き出したように笑い、わしゃわしゃと翼の頭を撫で回す拓郎。されるがまま。けれどどこか迷惑そうに翼はため息をつく。
二・三度撫でて、しゃがんでいた拓郎も翼の隣に座り直した。片膝を立て、それを利用して頬杖を着きながら横目で翼を見つめる。
「随分落ち着いてるじゃん。反抗期は過ぎ去ったか?」
「…………」
何も言わない翼。真っ黒の瞳で、ただ真っ直ぐ前を見つめている。
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