入学

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取り残された俺は立ち尽くした。彼女と居た痕跡を残すのは、この白いローブだけ。なんだか、寂しい気持ちになる。 名前ぐらい聞いておくべきだった。自分の腑甲斐無さに愕然としながらも、腕に握り締めたローブを抱えて帰路に着く。 もう二度と会えない訳じゃないんだ。そう、またいつか会える。その時に名前を聞こう。出来れば、お返しに何か買ってあげたい。……大した物は買えないけど。 総論を言えば、今日は良い一日だ。王国附属魔法学院の合格に次いで、可愛い女の子とデート……のようなもの。薔薇色人生を予期させる最良の一日。心が洗われる。 「貧乏貴族が買い物?」 詰めが甘かったか。良い気分で家に帰り着くには、ルートもきちんと選ぶべきだった。出来れば、迂回して回り込むように自宅を目指すべきだった。 そうすれば、斜向かいのこの家の前を通らなくて済んだ。
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