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走馬灯のように流れていった記憶に、雛乃は目を伏せる。
(……馬鹿だ、私。躊躇う必要なんてない。綺麗なんかじゃなかった。私の手は、既に血濡れていたんだから……)
懐から取り出した懐刀の鞘を抜き取ると、芹沢の背中越しに見える土方と沖田を一瞬だけ見た。
涙を乱暴に拭い、そのまま視線を落とす。
それに違和感を覚えた沖田と土方が動くものの、雛乃はそれより早く芹沢の脇腹に懐刀を突き刺した。
脇腹から腹部に掛けて一筋の線を描く。腹部の中心に辿り着くと、それを勢い良く引き抜いた。
溢れ出す血が雛乃の掌を、身体を染めていく。完全に生気を失った芹沢は、閉じる瞳を無理矢理開け、雛乃に笑い掛けた。
「良い……腕をしておる……な……」
「……っ……」
雛乃は上手く芹沢の顔が見れなかった。涙ばかりが溢れ、喉の奥がツンとなり胸が痛くなる。
「芹沢、さん……」
次第に小さくなっていく心音。あれ程荒々しかった息さえ聞こえなくなる。雛乃が慌てて顔を上げると、芹沢は既に事に切れていた。
「芹沢……さん……。っ、ぅあ……。あああ……」
首を横に振り、拒否を示すが事実は変えられない。
殺したのだ。
自分が芹沢を殺した。
「いやあぁぁぁぁぁっ!!!!」
芹沢 鴨。
平山五郎、愛妾の梅と共に何者かに斬殺され死亡。
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