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――――空が夕闇に染まる、暮れ六ツ刻。
緑が生い茂る畦道を、数人の青年達が駆けていた。
「っ、急ぎなよ! この馬鹿杉!」
「誰が、馬鹿杉だ! 誰が!! 毎回毎回、妙なあだ名ばかり作りやがって!! てめえ、着いたら覚えてろよ? 綺麗に斬り刻んでやる……!」
「ふぅん? 僕はそう簡単にやられはしないよ。それに相手は馬鹿杉だし」
「……はっ、言ってろよ。すぐに前言撤回させてやる」
互いを見つめ合う二人の表情は怖いくらい笑顔だ。
走りながら、言い合いを過熱させている二人の青年を見て、小柄な青年があわあわと声を上げる。
「ふ、二人共、今はそんなことを言ってる場合じゃないですよ! 早くこの子を久坂さんに見せないとっ!!」
その言葉にピタリと二人は言葉を止めた。
"馬鹿杉"と呼ばれた総髪の青年の背中には、気を失った血だらけの幼女がいる。負傷した腹部に、止血用として巻き付けた布からはジワリジワリと血が滲んでいた。
その様子を見て、青年は舌打ちをした。彼と言い争っていた中性的な顔の青年も表情を引き締める。
「急ぐよ、晋作!」
「分かってる!」
それを合図に、三人は一気に歩調を早めた。
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