第一章 午後10時の女

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       1 「本番行きます!5…4…3…」 ADが指折りながらカウントダウンを始め、2と1は指で表しやがてこちらに合図を送る。 軽快な音楽がスタジオに流れ始め、正面カメラの赤いランプが点いた。 そしてお馴染みの第一声を放つ。 「今晩は、12月13日月曜日、ニューストレイン。中香子です」 毎晩この一言から番組は始まる。 この一言こそが一時間にも及ぶ香子の闘いの幕開けの合図となるのだ。 「続いては今村外務大臣への献金疑惑に新たな展開です…」 座りながらもカメラ、もしくはコメンテーターに向かう背筋は真っ直ぐに伸びている。そして、ただニュースを伝えるだけでは無く、はっきりとした意見を述べる堂々たる態度は香子の長年の経験が産み出した自信とプライドの表れであった。 しかし、その雲行きは次第に変わろうとしていた事も香子は理解していた。 「お知らせの後はマジックスポーツです。相沢さん」 「はい、サッカー日本代表がやりました!そしてゴルフ最年少賞金王の翔くんに密着です」 サブキャスターの相沢由佳は20代半ばと若いが、危なげ無い、仕事の出来る女だった。 短い音楽の後、番組はCMに入った。 由佳が香子を見て小さく微笑む。様々な要素が香子を追い詰めていくのをひしひしを感じていた。
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