第四章 イヤな女

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「12月21日のニューストレインのテープを貸して欲しいんです」 「ああ、ライブラリーに行けばありますよ」 事件の日の映像を見て何を確認するのだろう…香子に一瞬不安が過った。 香子は佐川に声をかける。 「今日は志津里さんは?」 佐川はビクッとして香子の方を向く。 「い、今は視聴覚室を借りに行ってます。なので私がテープを借りに来まして…」 佐川の香子を見る目がおかしいのが香子はわかった。 いつも笑顔を見せ、いろんな話を織り混ぜながら事件に切り込む志津里からは本心をなかなか伺えないが、この刑事はまだ若いせいか動揺が表情に出ている。 「そうなの、志津里さんによろしく言っといて」 「あっ、はい…」 そう言いながら佐川はじろじろ香子を見る。 「私に何か言いたい事でもあるの?」 「い、いいえ…」 声に凄みを利かせた訳ではないが、香子の言葉に佐川は怯えている様にも見える。 「そう。じろじろこっちを見てくるもの、刑事なのに挙動不審なのね」 「まだ捜査に慣れてないもので…こんな場所も緊張しちゃって」 微笑んで言う香子に苦笑いで佐川は返す。 「あっじゃあ…それでは失礼します」 慌てて立ち去る佐川の背中を見ながら、香子は志津里が何かを掴んだ様な嫌な予感を抱えた。
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