プロローグ

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右手を翳す。 部屋に置いてある数十本の蝋燭が、それに応えて一斉に火を迎えた。 部屋の暗がりは一気に振り払われ、部屋が灯火に揺れる。 それと共に出たため息は、安堵の息とも取れるだろうか。 自分のため息の理由が分からない。 きっと、多忙のせいだ。仮眠を取る暇さえない。 この国は珍しく、王家が政治の舵取りをする王政国家。 さらには、国民に主権を与え、極端に言えば王に逆らうことを民が許された奇妙な国だ。 奇妙な国を造り上げたのは、まだ半生すら生きていないケルティアではなく、その父、ルーカスだ。 父上は数ヶ月前、謎の死を遂げた。今思えば、それが発端だった気がする。 今や反乱国家であるオスラビア帝国の奇襲、それによるファルフーレの北に位置するナドウィス共和国の陥落。 異国の皇帝の暗殺未遂。 全て前国王の死の直後だ。多忙な理由もそこにある。 一つあげるとすれば、ナドウィス国民だ。 国が陥落し、行き場を失ったナドウィス国民たちを、全てファルフーレが引き取ったのだ。 おかげで財政が泣いている。 それを快く迎えるファルフーレ国民は、やはりルーカス前国王の志に影響を受けているのだろう。 もっとも、ケルティアもその一人だが。 そして何より、多忙のもう一つの理由。 その件について、これからとある人物と会議をしなければならない。
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