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「塩屋、少し黙らないか」
冷たい声と視線で木根を押しやると、一景はまた静かな声で話し始めた。
「佐介、その我楽多をお前にやる。今夜にでも菊屋に行って、お前の目で確かめるんだ」
「あの……でも……」
佐介の戸惑いを制すように、一景は即座に首を振り、風呂敷包みを佐介の方へやる。
目の前の包みを、佐介は言葉を無くしたまま見つめる。
「これは、お前の手柄だ。あの御隠居は死んだ。瑠璃もいない。お前が手にしてこそ価値がある」
「けれど一景さん。それじゃ泥棒じゃないか。これは返すべき所へ返し……」
「てやんでぇ! 聞いてりゃさっきからお前さん達は、俺を忘れたか? 御隠居を刺したのは俺だ!」
木根が怒鳴り、二人は木根を見た。
眉を逆立てて、木根は二人を睨み付けた。
少しの静寂を破ったのは、一景の呆れたような乾いた笑いだった。
「塩屋。お前、分け前が欲しいのだろう? しかし、お前にやるわけにはいかん。廓通いで散財するのが落ちだろう」
「よぉ、一景さん。言わなかったか? 菊屋の菖蒲は可哀相な女だと。俺はその金があったら菖蒲を身請けして自由にしてやらぁ。遊ぶもんかね」
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