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八回表の絶好のチャンスに一点しか取れず、西河第一ベンチの士気は下がっていた
町田監督の頭の中にも、もしかしたら「負ける」という言葉がちらつき始める
(九回は六番からか… 本当にまずいんじゃないか?)
町田監督がそんな事を考えていると、男マネージャーが声をかける
「町田監督。投手を大西から富安に交代で良いんですよね?」
「うん? あぁ… 富安! しっかり抑えてこい!」
「はい!」
富安は大きく返事をしてベンチを出ていく
そんな富安を見ながら、町田監督は小さくため息をつく
「はぁ~… 負けるなんて考えてるから、今までも負けてきたんだ… まだ借りを返してないところもあるし、負けてはられねぇな…」
町田監督は自分自信にそう言い聞かせ、悪い考えをどこかに振り払うのだった
4対3で試合は八回裏の翔南高校の攻撃に入る
アナウンスがピッチャー交代を告げて、富安がマウンドで投球練習を始める
その様子を打席近くで眺める大江
(球はそこまで速くはない… 変化球は主に使うんがフォーク。行けるで)
大江は投げ込まれるボールのタイミングに合わせて素振りをする
そして富安の投球練習も終わり、大江が打席へと入りバットを構える
大江はいつも気合いの声を出して打席に入るのだが、今回は無表情で何も言わずにバットを構えている
折原はそんな大江を不気味に思いつつも、ストレートのサインを出してミットを構える
頷いた富安はランナーはいないが、セットポジションからボールを放つ
「ストライク!」
左手から放たれたボールは内角へと決まる
大江は少し反応したがそのボールは見送る
二球目に折原はフォークを要求し、富安は上手く低めにフォークを投げ込む
大江はこのボールも見送り、2ストライクと追い込まれてしまう
だが、大江はなんら焦る事もなく堂々とバットを構えている
(少し雰囲気が違う… 何か狙ってるのか?)
折原はそう考えつつ、再びフォークのサインを出す
頷いた富安は低めに狙って投げるが、ボールは真ん中付近に向かっていく
それを見逃さない大江は、フォークの軌道に合わせてフルスイングする
「フォークは見慣れとるんや!!」
カキイィン!!
快音とともに、白球は空高く飛んでいくのだった
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