プロローグ

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  私立高校、名桜(めいおう)学院。 私立らしく、公立にはない小洒落た雰囲気がひとつの特徴だ。 校舎は煉瓦造り風の外壁を擁(よう)し、どこか荘厳な雰囲気すら漂わせている。 校門もこれまた洒落た意匠の煉瓦造り。 そこから一人の生徒が、誰も私に声をかけてくれるなと言わんばかりの速足で下駄箱に向かっていた。 (――部活なんて、やってる暇ないのに……!) 学院の名前に恥じぬほどの沢山の桜の花びらが青空を染める中、その光景に似つかわしくない険しい表情でひたすらに歩みを進める女子高生。 セミロングの髪がいくら揺らごうと、スカートがいくらなびこうと、気にする様子はない。 彼女の不満の種は、沢山の人、人、人。 それもみな片手に部員勧誘のビラを持って、である。 それは渡された新入生だったり、渡している上級生だったりで。 入学式から三週間ほど経ち、部活紹介の集会も済ませ、現在は体験入部の期間。 部員集めに躍起になっているいくつかの部活では、ビラを用意して新入生に配り歩くのだ。 この名桜学院の最大の特徴。 文武両道を校訓として掲げており、部活動が活発で、入学した生徒は部活への入部が必須とされる。 つまり、部活は高校生活を左右する重要な要素となる。 そして、入部を拒んでいる急ぎ足の彼女ももちろん何かしらの部活に入らなくてはならないのだが、ここでまた『学院のルール』が阻害するのだった。  
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