梅雨

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梅雨をすきだと言う人が、どうしてもナルシストに思えていたときがあった。   とくにおんな。 なんであんな得意そうに幸せそうに、雨がすきなの、とか言えてしまうのか。 同性だからだろうか、私はそうゆうおんなをみるといちいち苛々していた。       その日も雨だった。   私は休日に部活の用事で学校に来ていて、ゆうがた一人で帰るところだった。 向こうのほうでまだ運動部系がガヤガヤしていたが、くつばこのまえに一人。外に出るのをためらった。 雨がバタバタと激しく音をたててふっている。   もの寂しさが腹だたしさと合わさり、かさは持っているが嫌な気分。 そこへ、話したことはあまりないクラスの男子が、やっぱり一人で帰り支度でやってきた。   立ち止まっているトコを見られてしまったので無視するわけにもいかないが、話しかけるほど仲良くもない。 どうしたらいいのか判断ができない間に、男子は靴をトントンとはきかえ、すたすた隣へやってきた。 雨を見て、やはり出口でとまる。とまるだろうな、とは思ってはいたが気まずいものだ。     話し掛けられないように、いかにも雨が弱まるのを待ってるのよ、みたいな顔をして男子をみないようにする。が、 「雨すごいね」 話し掛けられてしまったら答えざるをえない。 なぜか安堵しながら「うん」と答える。   「こんな雨のなか帰りたくないね」 「なんか雨の日って怖いし無性に寂しいし」 「うん」 「やまないね」 「うん」 そんな話をしていたら、突然「俺、送っていこうか」と言いだした。 当然断る。しかし、その男子は物凄く素敵なことを思いついたこどものように、「いや、いこうよ。ふたりだと雨も別に気にならないよ」と主張するので、私はしぶしぶ折れた。   他愛もない話をしながら帰った。 なにかくすぐったい思いで、自己紹介みたいなことから近況報告みたいなことまで話をした。 名前を初めて知った。 ちゃんと顔をみたのも初めてだった。 雨がひどかったので、とてもゆっくり歩いた。 にこにこしながら「また明日ね」「おう、またな」と手をふりあった。     靴のなかもくつしたも、カバンの端も、スカートの半分ほどもずぶぬれだ。 だが、いい気分だった。 恋にはならないとは思う、だがとても幸せな気分だった。   クラスの、恋の話ばかりしているおんなどもが「梅雨がすきなの」とうっとり言うのを、すこし、理解した。
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