キス

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ゆらゆらと影がゆれる。花の中から覗く人の色に少し酔いそうになりながら僕は君を探し出した。 「ごめん、遅くなって」 わずかに髪と息を乱しながら僕に駆け寄ってくる。耳元に淡い桃色の飾りがみえた。 今日は僕と瑞葉が付き合いだしてから二年目の記念日だった。耳元に揺れるその淡い桃色はローズクォーツ。恋の石。 去年の記念日にあげたそれを、彼女は今日、つけてきてくれた。嬉しさに口元があがる感覚を覚えながら、必死でそれを隠した。 「大丈夫、そんなに待ってないから。 車向こうだから、行こうか。」 ゆっくりと花の下から抜け出して歩く。しばらくして振り返れば先程まで僕らを隠した大きな桜の木が風に揺れていた。ローズクォーツの様な淡い桃色が飛び交う。綺麗だけど、このままじゃすぐに全部散ってしまうだろう。 底知れぬ寂しさに襲われて、瑞葉の指に自分のを絡めた。 「悠は、桜 好き?」 突然投げ掛けられた問いに、驚く事もない答は、曖昧。 「嫌いじゃない、かな」 僕は 何も知らなかった。 車内ではいつも通りの会話で笑った。 あいつがこんな事を云った、やった。 誰々ん家の犬が…… 余りにもくだらなくて、余りにも大切な時間を過ごす。 スピーカーから流れていた洋楽が瑞葉の声を掻き消す様で疎ましかった。停止のボタンに手をのばすといとも簡単にそれは止まって僕に安心を与えた。 瑞葉は何も疑わず微笑んでくれる。彼女を絶対に離したくないとさえ思う僕は、我が儘だったのだろうか。 窓から除く桜並木は淡い桃色に満たされている。 この景色を見る度に締め付けられる想いになる意味は、まだわからないけれど。 その時僕は、散り散りになる桜に二人を重ねていた。
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