トマトのお礼

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「でも、どうして会いに来てくれたのかな?」 「すぐに質問するんじゃなくて、まずは自分で考えることが大事だって、先生が言ってたわ」  私はパパがよくするように、腕組みをして眉間にぎゅっと力を入れました。おじさんはなるほどと頷きました。そこまではよかったのですが、おじさんは頷いたまま黙ってしまいました。 「どうしたの?」 「理由を考えているんだが、さっぱりだ」 「いいわ、それなら教えてあげる。でも怒らない?」 「怒らないさ」  私はおじさんの膝に手をついて、耳元に口を寄せました。 「淋しそうだったからよ」 「僕が?」  怒った風ではなかったので、私はほっと胸を撫で下ろしました。 「だっていっつも一人ぼっちなんですもの。その本だって、一人よりふたりで読んだ方がもっと面白いに決まってるわ」 「優しい子だね、ミーシャ。でもこの本には文字がないんだ。君だって見ただろう」 「ええ、見たわ。だから声に出して呼んでちょうだい」 「面白くないかもしれないよ」 「読んでみなきゃ分からないわ」  おじさんはしばらく悩んでいましたが、やがて仕方がないなあと微笑みました。 「トマトのお礼もあるし、特別に」  おじさんは一つ咳払いして、本を開きました。
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