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世界は平穏だった。
道路の上に掲げられた電光掲示板では、その月の交通事故の死亡者数が無情に数を増やしていたし、テレビでは最近起きた青少年の心中事件について色々な憶測を並べていたけれど、やはり世界は平穏だった。
少なくとも、笑いながら廃ビルわきの歩道を歩く、二人の少年少女にとって、世界は平穏だった。
彼らはその日、三年間通った中学校を卒業した。
すでに進学先の高校は決まっており、二人はなんの心配もなく春休みを過ごせるはずだった。
現に、彼らはその時まで、この後友人達と行くはずの卒業記念のカラオケパーティーの話をして笑っていた。
なんの心配もなく、なんの気兼ねもなく、これからも続くはず時間を楽しんでいたのだ。
その時までは――。
世界は、唐突に展開した。
特有のにおいを発しながら、ゴムとコンクリートが擦れあう。
悲鳴のようなブレーキ音が響き渡り、直後、様々な破壊音が一斉に弾けた。
――そうして、二人は死んだ。
本来なら、少年少女の物語はここで終わるはずだった。
死へ向かう苦痛もなく。
誰かを想う時間もなく。
流星のように呆気なく。
終わってしまうはずだった。
しかし、そうはならなかった。
ある者の、たった一人の、思惑によって――。
これは、新たに始められた物語。
たった一つの願いのために、再び終わり始めた少年少女の物語。
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