新しい母

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 開口一番、権平は龍馬を激しく叱責する。途端、龍馬は居たたまれない気持ちで一杯になった。 「権平、今はもうえいき!乙女、龍馬、おまんらも、こっちに来て早よう座りぃや!!」  怒る権平を遮り、八平は乙女と龍馬にすぐ座るよう促す。  二人が座ったのを確認すると、八平は今一度、家族の顔ぶれを見渡し、ゆっくりと話し始めた。 「──実はのぉ…この度、アシは新しく妻を娶る事と相成ったがじゃ!」  一瞬の沈黙が、その場を包む。そして、次の瞬間だった。 「えぇ───────っ!?」と、一斉に驚く一同。齢も五十を超えた八平が、新たに妻を迎えようと言うのだから尋常でいられる訳がない。 「父上、そ、それは本気ながですか?」  疑いの眼差しで八平を見据え、権平は恐る恐る尋ねた。 「何ぜ?権平…おまん、異論でもある言うがかえ?」 「いやぁ…異論らぁ滅相もない!けんど、父上も、そのぉ…」  言いづらそうに口ごもる権平、八平の高齢を考慮し、はばかっているのだ。  大体、この歳で再び妻を娶ると言うのだから、権平や一同が困惑するのも無理はない。 「みんなぁ、ちっくとアシの話を聞きや…」  動揺する家族とは裏腹に、八平は至って冷静である。そんな祖父と父のやりとりを、五歳の春猪は不思議そうに見詰めていた。
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