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「お祖父様、妻を聚るが?」
言葉の意味も分からず、春猪はにっこりとほほえむ。子供らしい屈託のない笑顔、八平も権平も、ついついほっこりとするが、今はそんな状況ではなかった。
「そうです!妻を聚るち言うて、一体、何処の誰を妻に迎えるゆうがですか?」
改めて権平が尋ねる。まさか、いい歳をして若い娘に入れ込んだ末に婚儀の運びとなったのでは?などと、権平はよからぬ想像までめぐらせてしまう。
「権平…おまん、妙な考えらぁ、しちゃあせんろうのぉ?」
図星である。権平は瞬時に顔をこわばらせ、視線を反らした。
「まぁ、えいちや!今から、きちんと話すき、よう聞きぃや」
家族が疑惑の目を向ける中、八平は気を取り直して、ゆっくりと話し出す。
「名前は伊與ちゅうてのぉ、藩の御用人を務める北代平助殿の息女で、お城の女中らぁに槍の稽古を付けちょったそうながじゃ!」
どうやら、相手の素性は申し分ないようである。権平は、自身の考えが杞憂であった事に胸を撫で下ろす。
「今回の婚儀、アシにとっては、まさしく良縁ぜよ!」
いつもは寡黙な八平が、饒舌な話しっぷりだ。それだけ、相手の伊與を気に入ったに違いない。
「あ~そうそう…伊與は種崎の回船問屋川島家に嫁いじょったが、今は夫や子供とは死別したそうながじゃ…」
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