いつか帰るところ

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「なめてんじゃねえぞ、コンチクショウが!」 真っ暗な部屋の中。 堅牢な金庫に鍵を差し、ダイヤルに手をかけようとしたその時、背後から声。 反応すると同時に物陰に身を隠す。 すかさず轟く銃声。 「ちょっとイイ女だからってかまってやりゃあよ。なんかクセえと思ったら、やっぱこういう事だったかよ」 奴はライネル・ホットウェル。 この辺りでのさばっているスリ団の元締めだ。 銃声は止むことがない。 暫くして引き金を引く音のみに変わる。 続いて舌打ちと、銃弾を装填する音。 その隙に暗闇の中、あたしは移動する。 「ジタバタしてんじゃねぇーッ!」 再び乱射。 数日前、あたしはこの男に近寄った。 やっている事はコソ泥並のゲス野郎。 しかし、その腕と組織力は大したもので、かなり貯め込んでいるらしい。 マフィアとのパイプもあると噂され、この界隈ではアンタッチャブル。 警察すらも手をこまねいていた。 あたしは奴と暫く生活を共にし、資金を保管している金庫の位置とその鍵を手に入れた。 所詮は小悪党。 ちょっと色気を見せてやったら何でもかんでも垂れ流すんだから。 こんな汚いクズはこの街に必要ない。 誰も裁かないなら、あたしがやる。 正義だとか、そんな気取りなんかじゃない。ただ、許せないの。 だけどそんなゴミみたいな奴だから、やっぱりお金には敏感なのね。 肝心な所で、こうやって嗅ぎ付けて来る。 さあ、どうしようかしら。 「出てきやがれこのビッチがよ。てめえに逃げ場なんてありゃしねえぞ」 部屋の入り口でまくし立てる。 あたしは気配を消して、息を潜めている。 中まで入ってこないのは、あいつの本能かしら。 暗闇の中じゃ、あたしの勝ち。 そのへっぴり腰が、自身の命綱って訳ね。 再び銃弾を装填。 またあの安物を撃ちまくる気ね… 待っていたらいつか弾は切れる。 だけどこれ以上騒がれるのは分が悪い。 あいつの手下が出払っているこの時間を狙った意味が無くなっちゃう。 「勘違いしないで。構ってやったのはこっちなのよ。お金が目当てじゃなきゃ、あんたみたいなブ男に女が寄り付く訳ないじゃない」 あいつがあたしの声のする方を見る。 「いいこと、死にたくなかったら、さっさと何処かへ行きなさい」 奴の雰囲気が変わる。 一歩踏みしめる音がする。 また一歩。 さっきであたしの居場所が知れたみたい。 確実に距離は縮まる。
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