私と彼らとあなた

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私は赤と黒を好む、この上なく好むのだわ、と。そして正気に戻るまで私の内部を覗かせてあげる。あなたはいつも私を鍵穴から覗いていたのでしょう? でも何も見えはしなかった。私はそこにいながらそこに存在してはいなかったから。矛盾はいつも起こりうることよ。だけど、今日だけは特別、特別よ。私はそんないじらしいあなたでさえ欲しくなってしまったから。 そう私は何かよるすべを探していた。しかし、私は孤独というものを恐れながら、それに何か逃れ得ぬ執着心を感じていた。いつも満たされない心は空洞だった。からんと渇いた音を立てて落ちていくカチカチに凝固した血液が弾ける音がやまなかった。周囲には喧騒、それにまみれて震える手足、この心の不安定感がマゾヒスティックに何より心地良かったことも本当だった。真に絶え間なく掻き込むように満たしてくれる存在、断続的な満足感つまりそれが私にとっては愛情、その存在を待ち侘びていたし、きっといつか現れると信じていたから。 今までの彼らはもちろん満たしてくれた、でもそれだけよただそれだけ。くれていたけれどもそれは私を永遠に飽きさせないものとはなりえなかった。しかし、手放したくはない、手放したくはないのだ。手放すには惜しかった。口惜しい人たち。必ず示し合わせたように現れて私の瞳を子猫の愛撫でとろけさせる彼らをやはり手放したくはないのだ。私は飴玉となって溶解していき、彼らはおそらくすっかり消えてなくなるまで私を舌の上で転がしていた。そうして私は彼らの中に浸透していく。彼らの内部を経て新しい私が生成されていく。私は消費され尽くして彼らの思考回路に組み込まれる。だって糖分は脳の栄養分でしょう? そして優しさは毒であるということはご存知? 知っているわよねぇ? 男はみんな子供だもの、甘い物が好きなのよ、糖分が彼らを侵食していく。やはり同じ人物を媒介として生成される私にはやはり新鮮味がなくなっていく、新しいものが新しいものでなくなっていくから。だから私は彼らを激しく蝕んだ。そして蝕まれた彼らは寝たきりになる。やはり手放したくはないから。   馬鹿ね男はみんな子供だもの。採血のお時間ですよぉ、そう楽しげに言いながら彼らの首筋に腕に心臓に脳に陰茎に管を突き立て全身から血液を抜き取り無心に味わう。そして私は彼らを着飾る。
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