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「失礼します…1年1組殺生丸です…」
理科の実験室の隣にある教員の部屋に入ると、狭いその部屋にいる教員が一斉に殺生丸を見る。
「あ…その…奈落先生、は…いらっしゃいますか…?」
若干気圧されつつもそう問うと、一番近くにいる初老の教員が奥の部屋を差し微笑んだ。
「奈落先生ならほれ、あの奥の部屋におるよ」
「あ、ありがとうございます…」
殺生丸はその教員にお辞儀をして奥の部屋に向かった。周りの教員がなにやら言っているのが聞こえたが殺生丸はそれどころではなかった。
ノックをすることさえためらう程に心臓が鳴り、五月蠅い。
コンコンッとやっとのことでノックすると、中から奈落の声がした。
「誰だ?」
あのソファーに座っているのだろうか?何となくだが声が遠い。
「殺生丸…です…」
殺生丸が小さな声で名乗ると、バサッと何か割と量のあるものを投げ捨てたような音がし、それとほぼ同時に早足のような靴音が近づいてきた。
(な、なんだ…!また、胸が……)
殺生丸は自分の胸に手をあて、セーターを握り締めた。
(苦しい…!!)
そうこうしているうちにガチャッと扉が開いた。
「おぉ殺生丸!よく来たな」
「っ!」
「さぁ入れ」
と、奈落に促され殺生丸は部屋に入る。
扉を閉じると奈落は、扉の近くにたたずみ未だセーターの胸元を握り締めている殺生丸の肩に手を置き、顔を覗き込んだ。
「どうした?具合でも悪いのか…?」
「……いえ…」
首を横に振りそう答える殺生丸に、奈落は少し眉根を寄せると唐突に殺生丸を抱き抱えた。
「!!」
「お前は嘘が下手だと言っただろう…?」
「せん、せ…っ」
「安心しろ。ソファーまで運んでやるだけだ」
そう言って奈落は殺生丸を運び、ソファーにそっと横たえた。
「大丈夫か?」
奈落はソファーの前に座り、殺生丸の頭を撫でた。
「具合が悪いなら無理をせず家に帰ればよかったものを…」
「ちがっ……ほん、とうに…具合が悪いんじゃ…ない……です…」
「それならば…一体どうしたのだ?」
「わからない…です…急に、モヤモヤして…胸が…苦しくなって…」
「………殺生丸」
「はい…」
「お前、恋をしたことがあるか?」
「……いいえ…」
「くくく…そうか…」
意味深な笑みで殺生丸の頭を撫で、呟いた。
「それは…好都合、だな…」
と。
殺生丸にはその言葉に込められた奈落の真意が理解できなかった。
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