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「君の作った物語の中で、登場人物は生きるんだ。君の用意した台詞を語り、君の用意した行動を取って、君が用意すればシナリオ通り死んで逝く。あたかもそれが、自分達の行動であったと思い込み」
少女が考える間は無く、男はまだ語り続けた。
「僕等は特別な世界に居る。君が主軸にして、僕が語る。これは誰かの用意したシナリオ」
「……何故分かるんですか」
「ああ、僕には見えないんだ、何も。君が語った事が形になるまで。さあ、僕はどんな人間だ、少女」
少女は少女と呼ばれた事に不快な顔を伺わせたが、しかし受容し、言い出した。
何の悪い気も無く。
「貴方に、顔はありません」
「そうか、順応の早い少女。急に変えられたんだろう、自由なシナリオだな」
男は暗がりを透かす窓に視線を送り、自分の顔を眺めた。
顔は、無い。
そして無い瞳で少女を見向けば、激痛が走る。
ぐっ と鈍い声を漏らし、笑ったのは必然だった。
「どうやらこの物語は、面白可笑しく俺を殺したいらしい。ああ、何故君に刺されたのか、腹に突き刺さってるのか胸に突き刺さってるのか、突き刺さるそれが何なのかさえ解らない」
「せ、先生、私、何で……」
「それも皮肉な事に--」
少女は自分の奇行に驚いた様に顔を歪ませ、崩れ落ち、慌てふためいて男を抱き抱えた。
「私、何で……」
「ああ、ああ、面白い事だ。君は悪くはない。僕等を生き物としてみなさない創造主が--」
と、言いかけた所。
男は血を吐き、膝を地につける。
「なあ、君。凶器は僕の何処に刺さっているのか教えてくれないか」
「胸です」
「右か、左か」
「右です」
「そうか」
男は何と無く安心したような表情を見せ、すぐさまそれを消した。
流れるように血を吐き、瞳を閉じる。
「唐突に思い出したよ……僕の心臓は、右にあるんだな」
「先生……」
「最後だ。胸に刺さっているのは、何だ」
少女は泣きじゃくりながら、静かに、告げる。
「万年筆です」
「まいったな……。それはさっき、僕が、奪い返したのに……--」
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