付き合うまで

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付き合うまで

ただ、問題は今の二人には通勤電車が同じである、という共通点しかない事。 チャンスは毎日訪れるのに、 身体が触れたあの日以来、 どちらかというと私の方が彼の定位置から離れた場所に立ってしまう。 だって、そうして遠くから見ているだけでも、あの日の激しい鼓動が耳の先からまた波打つのが分かるから。 また彼の横に立つなんて自殺行為。 どんな出会いをして。 どんな風に声をかけて。 どんな風に始まるのか。 毎日、まいにち妄想していた。 いつもの降車駅。 あぁ、また今日のチャンスが終わってしまう‥。 もどかしい気持ちを抱きながら彼を少しだけ振り返り 電車を降りて乗り換えのホームへ向かう階段を降りる手前で、 持っていた定期を無くした事に気付いた私。 電車の中? ホーム? だめだ。 彼との妄想にいっぱいで何も覚えてないし、 触れていた指の感覚も分からない。 次の電車の時間を気にしながら、大慌てで駅員さんの所へ向かう私。 あぁ、もう妄想もほどほどにしなくちゃ。 職場でも最近ぼぅっとしてるって注意されはじめてきたし。 なんて考えながら、見えてきた駅員室に近付くと、 また心臓の音が大きくなってきた。 一方ずつ前に進む度に耳がまた熱くなる。 神様!! 私より一歩先に駅員室前にいたその人は、 この駅で降りるはずの彼。 「落とし物です。」 その声は紛れもなく、あの日頭の上から降り注いできたあの柔らかい声。 「定期を落としたんですが。」 かすれながら、頑張って絞り出した私の声は、 彼にも届いて、 初めて交わす視線。 彼のシャープな視線を受けて、死ぬかと思うくらいドキドキしたけど 私を認識した途端にほぐれた目尻。 覚えてくれてたんだ! 「あの。お礼を‥」 必死で繋ごうとする私に彼は 「今は時間がないから‥」 と一言。玉砕。 当たり前か。 「ですよね。」
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