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額に触れる背がこちらを向いた気配がした。 指が顎先に触れる。 震えていた。 さっきよりも、強く。 顔を上げると、変わらぬ穏やかな笑顔。 あぁ、そうだった。 この人はとても不器用だから、涙脆いくせに泣きたい時に泣くことが出来ない。 自身も知らない内に笑顔を作って、痛みに気付かない振りをするんだ。 ……私は自分の我が儘で何て残酷なことをこの人に強いたのだろう。 抱き締めようと差し伸べた腕に叉世の小さな体を乗せられる。 まだ温かいのに、眠っているようなのに、 もう二度と動くことはない、叉世の体。
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