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意識が朦朧とする中……
誰かが私に呼びかけてくる。
どこか聞き覚えがあり、更に不安をぬぐい去ってくれるような……
とても優しい声。
私はその声に導かれるかの如く、ゆっくりと目を開けた。
目を開けた私が見たもの。
それは暗闇の中、女性がふわふわと浮遊している姿だった。
女性が浮かんでいるのは私のちょうど目の前。
――え?
こ、これ、どうなってるの?
その髪の長い女性は青白い光を身に纏っている。
幽霊……、なのか?
だけど、その女性からは恐怖等を感じないのだから不思議。
私は思い切って口を開いた。
「……あなたは誰?」
私の声が暗闇に静かに響く。
女性は私を真っ直ぐに見ると一言呟いた。
『……あなたが昔、地下から持ち出した“あの本”を取り戻して……』
「えっ、あの本?あの本を取り戻してって……?」
あの本とは、幼い頃の私がGEM社の地下から持ち出したという?
あれのことなのか?
私だって……、あの本が何なのか知りたい。
何処にあるのか知りたいよ。
でも、なかなか思い出せなくて……。
すると髪の長い女性は、白く細長い指をこちらに向けた。
『……あなたは記憶を失っているはず。でもある人が余計な記憶を刷り込み、あなたの記憶が正しく蘇るのを邪魔しようとしている』
ある人――?
『あなたに暗示を解除すると言い、更に新たな暗示をかけた人物よ……』
それって、まさか優花さんのことか?
暗示のワードで思い浮かぶのは、やはり彼女しかいない。
「でも、どうしてそんなことをする必要があるの?だって、優花さんは私の……」
血縁者――……。
すると女性は私の額にそっと手を添えてきた。
『それは分からない。でもあなたにかけられたその女性の暗示から感じとれるの。強い念を。……あの本のことは私が管理する。だから忘れろ、と。だからその人には気をつけた方が良いわ……』
――!?
う、嘘でしょ……?
「……わ、分からない!なぜ私の記憶を蘇るのを阻止する必要があるの?」
『……あなたに思い出してもらっては困る事があるからじゃないかしら』
「……」
もし、この人の言うことが本当ならば……
優花さんは私の記憶が正常に戻っていないか。
協力しているふりをして、実はそれを確かめている?
だから、私を監視する為に私の側にいるの?
もう、何がなんだか分からないよ……。
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