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「結果論は好きではありませんの。実際にオルハラが出たというではありませんか」
「オルハラは熊ではないだろう」
「でも猫を食べます」
「「 え゛ 」」と魔王にメイド。
シャムは、まるで見えないオルハラから猫クロンを隠すように身体を回して抱き直すと、怒ってる顔だけをセイたちに向ける。
「あの人と何度、その事で喧嘩になったことか。人の飼い猫だろうとすぐに目の色を変えて、平気で手を出そうとするのです。魔導師としては尊敬していますが、生物としては徹底的に敵視しますの」
「じゃあ、奴が猫を好きと言っていたのは」
「大好物という意味です」
二人の仲が悪い原因について大いに納得するセイであった。確かに妖怪じみている。
「渡さなくて良かった」
「ほんとにねー。クロン、危なかったねー? もう能天気なお姉ちゃんたちに付いてっちゃダメですよー?」
「待てい、聞き捨てならん」
猫撫で声で猫に教訓を諭している魔女に魔王が食って掛かろうとした。
が、あえなく睨み返されたので言葉をゴキュリと飲み込む。
「メリッサ」
「はい!」
「私はクロンの飼い主ではないし、ちゃんと戻ってきたので許しますけど。先日の件から、貴女には少しがっかりしたわ」
ぐっさぁ! という表情を浮かべているメリッサ。
空いた皿を片付けると、栗毛の猫を抱き、他の飼い猫たちも引き連れて魔女は屋敷に下がっていった。
それから、見るからに肩を落としているメイドを見て、不憫に感じたセイは声をかける。
「すまん、怒られてしまったな」
「……いえいえ、私が悪うございます。まさかお嬢様が、これほど早く戻られているとは」
ハハハ、と乾いた笑いを漏らしているメリッサ。完全に意気消沈モードだった。
「クロン様をマナ・ハウスにお連れしたのも、後ろめたい気持ち和らげたかった私めの独断。それでお嬢様の気を揉ませたとあってはメイド失格でございます」
「あいつが神経質すぎるのだと思うぞ。すっかり飼い主気取りだし」
「セイ様、それは違います。ロッテお嬢様ご自身も、今回の件で責任を感じておられるのでございます。だから猫となったクロン様のことを、他の猫一倍、気にかけているのでしょう」
「猫一倍か」
「猫一倍でございます」
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