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風呂の水が揺れ、月が流れる。
真っ白な腕から垂れた水は、音を立てて月を揺らす。
遠く届かない月を指でなぞり、ぐっ、と拳を握る。
それでも水に月は揺れる、揺らされる。
「・・・小夜様。そろそろ上がられないと、御体に障ります」
「障るものなら、障れ。しかし障らぬのだよ。死すら、私を触ろうとしない」
幾数年・・・いや、何百年。か
草を見た、木を見た、人を見た、月を、見た。
変わらない景色など無いハズなのに、この体とあの月とこの月だけは変わらない。
「・・・布を、ここに置いておきます」
「ん」
世界に飽きず、いつからかずっと伸ばした髪を音を立てて広げ、水を飛ばす。
「小夜様。お美しゅうございます」
「何をもって、美しいというのだ?」
怒りなど微塵もない。
ただ聞いてみた。
「小夜様・・・?」
「私はね、この世界は美しいと思う。けど生き物を美しいとはあまり思えない。何故?多分、私と違い、数十年、時が経てば骨となり土となり魂となる。花を美しいとは思えない。なのに今揺れている月は美しい。何故?」
水を掬い上げ、首筋に垂らす。
掬い上げた水は首、胸、腹を伝い再び水面になった。
「何もかも、わからないの。美しいか美しくないかさえ」
水が流れるのは何故?時が止まるのは何故?月が浮かぶのは何故?私には露ほども、わからない。
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