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ルナエラ先生は、着地してすぐに床を凝視した
飛び退きはしなかったが、いつものようなテンションの高い雰囲気は微塵もなく、緊張した表情で、見定めるように周囲を見回す
その中を先生が近寄ってくる影が見える
危険がないと判断したのか、俺に近付いてくる時には、いつもの顔だった
「フェイド君。大丈夫?」
ずぶ濡れの中、心配そうな視線が向けられて、泣きたくなった
俺はなんともない
むしろ、アルスとリジェイ先生の状態が深刻なのだ
2人は大丈夫なのか
「俺は、大丈夫です」
雨粒の量が増し、雨が強くなってきた
俺の声もかき消してくれたらいいのに
「なら、良かったわ」
それでも、声は届いたらしく、ルナエラ先生は本当に安堵したように息を吐いた
それが、どうしようもなく身を縮ませるような気持ちになる
何が、『良かった』と、言うんだろうか
「身体が冷えてはいけないわ。校舎に戻りましょう」
ルナエラ先生がそう言って、俺の肩を寄せようとしたが、触れたと同時に、後ろへと下がる
優しくされたくなかった
自分が安易なことをしたせいで、こんなことになったのに
「戻りましょう」
そう、促され『はい』と頷く
練習場の入り口へと歩き出す
その時には、もう、水に漂う魔力はなくなっていた
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