練習場2

53/53
61008人が本棚に入れています
本棚に追加
/574ページ
ルナエラ先生は、着地してすぐに床を凝視した 飛び退きはしなかったが、いつものようなテンションの高い雰囲気は微塵もなく、緊張した表情で、見定めるように周囲を見回す その中を先生が近寄ってくる影が見える 危険がないと判断したのか、俺に近付いてくる時には、いつもの顔だった 「フェイド君。大丈夫?」 ずぶ濡れの中、心配そうな視線が向けられて、泣きたくなった 俺はなんともない むしろ、アルスとリジェイ先生の状態が深刻なのだ 2人は大丈夫なのか 「俺は、大丈夫です」 雨粒の量が増し、雨が強くなってきた 俺の声もかき消してくれたらいいのに 「なら、良かったわ」 それでも、声は届いたらしく、ルナエラ先生は本当に安堵したように息を吐いた それが、どうしようもなく身を縮ませるような気持ちになる 何が、『良かった』と、言うんだろうか 「身体が冷えてはいけないわ。校舎に戻りましょう」 ルナエラ先生がそう言って、俺の肩を寄せようとしたが、触れたと同時に、後ろへと下がる 優しくされたくなかった 自分が安易なことをしたせいで、こんなことになったのに 「戻りましょう」 そう、促され『はい』と頷く 練習場の入り口へと歩き出す その時には、もう、水に漂う魔力はなくなっていた
/574ページ

最初のコメントを投稿しよう!