78938人が本棚に入れています
本棚に追加
/522ページ
「ハア……ハア……」
右腕を押さえながら、荒々しく呼吸する。
少々無理な『肉体強化』をしてしまった故か、肉も骨も痺れるように痛い。
(やっぱ調節が難しいな、神力って……)
そんなことを考えながら、大の字になって伸びる大男へ歩み寄る。
傷口は八割ほど塞がっているが、鱗や甲殻に再生した様子は見られない。もう体力的に限界のようだ。
「……ッ、カハッ……」
野性味を失った咳と共に、真紅の血が吹き出る。
鎧のごとき鱗を半ば失った顔は、左目に古傷を抱える、いかめしい仏頂面に戻っていた。
双眸に宿る光は、ぼんやりとしていて弱々しい。
何と声をかけようか、思案したのも束の間。
「……弱い」
仙人のような威厳に溢れる声が、シグマの唇の端からこぼれ落ちた。
「今も昔も、守りたいだけだというのに……守れるだけの強さすら、私にはない……」
瞳も声も、深く暗い悲しみに満たされていく。
「私は、どこまで……どこまで弱いというのだ……?」
「……」
あんたが弱いなら、オレはどうなんだよ。
……なんて軽口を叩く気は起きなかった。胸がキリキリと締めつけられる。
最初のコメントを投稿しよう!