恋慕

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『晴れたら一緒に月を見ようね』 その約束は未だ叶わぬまま…… ―――― しとしとと雨の降る季節。 私は只、呆然と空を見上げるほかなかった。 あぁまた雨か……とため息をつき、机に頬杖をついた。 雨が降るたびに約束を思い出す。 もう二度と逢えないだろう貴女のことを…… ――――― 「先輩、もう帰りませんか?」 「もう少しだけ……」 その日も雨は降っていた。 先輩はスケッチブックにただ丁寧に私を写し取っている。 絡み合うことのない目線。 熱のこもったそれは少しだけ……いや、大きく意味合いが違う。 ただ前を向いている私を描いてる先輩の熱心な目。 私を描いている先輩を見る熱い目。 ときには潤むほどに私は先輩を見続けた。 「上手くかけそうですか?」 私の問いに先輩はただ頷く。 「先輩」 私はあまり口を動かさないように考慮して呼び続けた。 「なに?」 素っ気ない言葉ひとつでも私にとっては神の言葉と等しい。 そして私はそんな先輩に恋慕していると思う。 デッサンのモデルになることは別段変わったことではない。 例えば写真部でモデルを努めたり演劇部の助っ人をしたりと私は見られる側の人間だ。
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