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「海斗のバカ!!もう知らないっ!!」
「おい、遊里!!」
スパンッ!!
古いけれどキレイな花の描かれた襖は、思った以上に切れ味の良い音をたてて閉まった。
靴を履き、鍵の閉まったドアを開ける。
「なによっ…私の気も知らないで…」
ブツブツと言いながら旅館の浴衣姿で木目の廊下を歩いた。
広く静かな旅館には不似合いな、大きな足音を立てて。
夫婦水入らずの、楽しい旅行のばずだった。
家から2時間程しか離れていない場所ではあるが、周りは木に囲まれた美しい旅館だ。
古い建物がまた味を出していて着いた途端に嬉しくて頬が緩んだのを覚えている。
なのに…海斗のバカ!!
―1日前―
「気をつけて行って来てね。」
子供達に見送られ海斗の車の助手席に乗り込む。
窓を開けて三人を見つめると、遊真がプッと笑った。
「母さん、大丈夫だよ。俺達ももう何日もすれば中学3年生になるんだよ?里海の面倒だってちゃんと見れるって。安田さん達もいるんだし心配しないで。」
そんなに心配そうな顔をしてしまっただろうか。
だけど実際心配なんだから仕方がない。
「ったく…大丈夫だって言ってんだから大丈夫なんだよ!たまには夫婦でイチャイチャして来いよ。あ…いや、母さん達は旅行なんかしなくても毎日イチャイチャしてるか…。」
斗真が呆れたように言うので顔が熱くなった。
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