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「こら斗真。母親をからかうんじゃない。遊里をいじめて良いのは俺だけだ。」
海斗がフォローになっていないフォローを入れ、私を挟み斗真と海斗の視線がバチバチとぶつかっている。
「…これだもんなー。ま、両親は仲が良いに超した事ねぇか。…ゆっくり休んで来いよ、母さん、父さん。」
ため息をつき困ったように笑い、斗真の声が柔らかくなった。
その時遊真の腕に収まっていた里海が私に向かって手を伸ばしてくる。
全開にした窓から手を差し出すと、まだ幼い手がそれを握りしめた。
「パパ、ママ、里海良い子にしてるよ!いってらっしゃい!」
その手の温もりに視界がぼやけてしまう。
「ちょっ!母さん!?…今生の別れじゃあるまいし…泣かないでよ!」
「…母さんの泣くポイントが分かんねぇよ…。」
焦る遊真に、頭を抱える斗真。
そんな様子を見かねたのか、ギアを入れながら海斗が口を開いた。
「…もう出た方が良さそうだな。遊真、斗真、里海。宿泊券、ありがとう。留守を頼んだぞ。」
「はい。」
遊真の返事を聞き、車が動き出す。
私は窓から身を乗り出して三人の姿が見えなくなるまで手を振ったのだった。
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