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あらゆる生命を否定する世界……炎界。
黒い大地に連なった山々が轟音と共に噴火を繰り返し、流れ出る灼熱の溶岩が大河を形成する、灼熱地獄と呼べる不毛の世界。
その地獄を支配する怪物は、黒い巨体を溶岩の中に沈めたまま微動だにしない。
まるで石像のようである。
炎界の守護者ヴァルカン……かつて異界の少年と共に闇の王を倒した巨竜は、火山の轟音を子守唄に眠り続けている。
そんな火焔の荒野に、異常な気配が現れた。
「いやはや……まったく、暑いものですね」
「…………?」
黒い大地に忽然と降り立ったのは、大凡場違いな紫のタキシードにシルクハットを身に纏った長身の男だった。
しかし、その周囲を取り巻いている邪悪な気配は人間のものとは到底思えない。
突然の侵入者を察知したヴァルカンは、閉じていた目を開き、低く唸りながら男を睨み付ける。
「何奴だ?」
「これは申し遅れました。わたくし、モレク・ヴァリアントと申す者。守護者ヴァルカン殿、あなたを捕縛するために参りました」
優雅に一礼しているが、その目は鋭い刃のようだ。
ヴァルカンは溶岩流の中から立ち上がり、口から猛火を吹き出しながら激しく威嚇する。
「失せよ。それ以上言の葉を吐くならば、我が炎によって滅尽してくれよう」
「おお、恐ろしい。ですが……できますかね?」
「警告は終わった。我が炎界の一部となれ!」
ヴァルカンの口から火焔が放射されてモレクを包み込む。一瞬にして消し炭となるであろう灼熱に、守護者自身も終わったかと思ったとき――。
「やれやれ、お話の通じない怪物だ。いや、怪物ゆえか……」
炎に包まれたはずのモレクが、いつの間にか別の場所にいた。
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